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第31回 受賞作及び受賞者名

   

『尖閣問題の起源―沖縄返還とアメリカの中立政策』
(名古屋大学出版会 2015年)

ロバート・D・エルドリッチ
(エルドリッヂ研究所・代表)

本日、大変天気の良い日にお集まり頂き、誠にありがとうございます。
 受賞者の代表として、次の四つの理由で、この賞を受賞するに当たって大変光栄に思っています。
 第一の理由は、私たちの学問分野では全ての研究者が憧れている賞です。
 第二の理由として、(故)大平正芳元内閣総理大臣は大変誠実な人で、日本のみならず、世界中に尊敬された人物です。
 第三の理由として、大平文庫が象徴しているように、大平総理大臣は大変な勉強家で、丁寧に考え、丁寧に行動する人でした。
 第四の理由として、この賞は、私たちにとって、それぞれの著作において注いだ努力が認められただけではなく、日本や世界中により知られ、共有されるようになるでしょう。
 ほかの受賞者も同様な気持ちを持っていると確信しています。そして、受賞者である岡本准教授、三重野教授、田中先生、高橋次長も、公益財団法人大平正芳記念財団や数多くの本の中から受賞作を選考したという難しい作業を行ったその選定委員会に対して強い感謝の気持ちを抱いていると思います。
 ほかの受賞者も同じく考えていると思いますが、感謝すべき人が数多くいます。私たちの先生たちや教授たち、同分野の学者たち、家族、所属する機関や出版社。
 私事ですが、私の研究を「共に生きている」妻と子供たちに特に感謝しています。また、出版社である名古屋大学出版会の三木信吾氏、そして拙著の翻訳をしてくれた吉田真吾先生と中島琢磨准教授、そして影響を受けた渡邉昭夫名誉教授などの先生たちへ篤く御礼を申し上げたいと思います。
 今日参加して下さっている私の指導教官、五百旗頭眞教授は、私と同級生たちが、教室内外でベストを尽くすことを促してくれました。ここにいらっしゃる皆さんがご存知のように、五百旗頭先生や渡邉先生をはじめ、また、選定委員会の渡辺利夫委員長などは、優れた歴史研究のみならず、日本をはじめ世界が直面している問題を政策決定者がより理解するために大いに協力している知識人たちです。私は、26年間住んできた日本および母国のアメリカのために、そのような学者になりたかったのです。学問と政策、そして日本とアメリカとの架け橋であることは決して簡単ではありません。
 今回の正賞を受賞した『尖閣問題の起源』という著作は、日米両国の政策決定者たちのために、その歴史をより正確に知り、その課題により誠意をもって対応してもらう助けになる試みでありました。これからの彼らの対応は、今日の現状のみならず、今後の地域の情勢にも大きく左右します。
 私はこの分野で今後とも研究を続け、1972年から今日までを対象にする『尖閣問題の今』(仮題)という続編を書く予定にしています。これは、他の研究やプロジェクトをしながら行います。研究を深化しながら、拡大していくという気持ちは、ほかの受賞者にもあると信じています。
 我々の研究へのご関心とご指導、誠にどうもありがとうございます。今後とも、どうぞよろしくお願いします。

略歴
米国ニュージャージー州生。パリ留学等を経て1990.5リンチバーグ大学卒(国際関係論)。同年7月、来日。1999.3、神戸大学大学院法学研究科博士課程後期課程終了。政治学博士。サントリー文化財団、平和安全保障研究所等の研究員を経て2001.7大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授。2009.9-2015.5、在沖米海兵隊基地司令部政務外交部次長就任。著書に、『沖縄問題の起源』(名古屋大学出版会、2003年  サントリー学芸賞、アジア太平洋賞)、『硫黄島と小笠原をめぐる日米関係』(南方新社、2008年)、『オキナワ論』(新潮新書、2016年)など多数。

『タイ混迷からの脱出―繰り返すクーデター・迫る中進国の罠』
(日本経済出版社 2015年)

高橋 徹(たかはし・とおる)
(日本経済新聞社国際アジア部次長)

2016年度の大平正芳記念賞特別賞をいただき、誠にありがとうございます。
学究的な他の受賞作に混じって「ゴルゴ13」の一場面や薄着の女性の描写などが登場する拙書を選んでいただいたことに、驚きと共にいささかの戸惑いを感じています。
本書は私が2010~15年に日本経済新聞バンコク支局(14年からはアジア編集総局に改組)に駐在した間、「タクシン元首相派vs反対派」の対立でジェットコースターのように目まぐるしく変化したタイ政局を中心に、同国の政治・経済・社会の動きを追ったものです。「クーデターと洪水、経済危機の3点セットを経験しなければ、タイでは1人前とは言えない」。赴任当初、在タイ歴の長い年配の方からそう聞かされました。私は着任直後にタクシン派の都心占拠とバンコク騒乱を、2年目に大洪水を、5年目にクーデターを経験しました。経済危機を「首都騒乱」に置き換えれば、いっぱしのタイ通と認めていただけるのではないか、そう考えたのが執筆のきっかけでした。
タイ現代史の「目撃者」としての自負はありましたが、執筆にあたって留意したのは、記者である自分が目と耳と足で得た情報を過信してはいけない、という思いでした。私のタイ経験はたかが5年間であり、個人の視野は限られます。目の前の事象がなぜ起きたのか、どこに源流があるのか、国際的にはどう位置付けられるのか。歴史をひもとき、国際情勢に照らし合わせ、そして先達の知見を手掛かりに読み解いていくと、点は線になり、やがて面になりました。自分がたどった思索の跡を、まとまった形で残せないか。基本的にはルポルタージュの体裁をとりつつも、本書を6~7世紀頃とされるタイ人の起源から説き起こしたのは、そのためです。
すでに四半世紀がたちましたが、大学で経営学を専攻した私は、卒業論文の序章にこう記したことを覚えています。「ジャーナリズムとアカデミズムの接点に立ち、広い視野で物事を見られる記者になりたい」。学術書と並んで栄誉に浴した拙書が、もしそんな観点でもご評価いただけたのであれば、これほど嬉しく、励みになることはありません。

略歴
1968年10月7日生まれ、香川県出身、横浜国立大学経営学部卒
1992年日本経済新聞社入社、名古屋支社編集部、東京本社編集局産業部などを経てバンコク支局長(2010~14年)、アジア編集総局発足に伴い同総局キャップ(~15年)。15年4月より現職

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